【国会レポート】落ち着いた議論のため解散権の制限が必要【2017年1号】

アメリカ大統領が持っている権限はそれほど強くない

アメリカのトランプ大統領は政権発足直後に、中東・アフリカ諸国からの入国を禁止するなどの大統領令を出しましたが、違憲の疑いがあるとして裁判所から停止命令が下されています。米国国内政治は上手くいっているとは言えません。けれども安全保障では、シリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃し、アフガニスタンでは核兵器以外では最強の爆弾を使用しました。また、朝鮮半島近海に航空母艦を展開させるなど圧倒的な軍事力を誇示しています。

以上のことから、では、アメリカ大統領の権限の強さは、実際にはどの程度のものかという疑問を持つ人も多いでしょう。

アメリカ大統領は、閣僚の任命権や、最高裁判所判事の指名権、条約の締結権のほか、米軍の最高司令官としての指揮権を持っています。

ところが、アメリカ大統領には、予算関連法案も含めて法案を提出する権限はありません。法案提出権限は連邦議会の上下両院だけにしかなく、大統領は施政方針演説を通じて上下両院に大統領の方針に沿った法案を提出するように促すことができるだけなのです。

アメリカ大統領の権限は一見すると極めて大きいように思えますが、アメリカでは行政(大統領)、立法(連邦議会)、司法(裁判所)という三権がバランス良く分立していて、一つの権力だけが突出するようなことはないのです。トランプ大統領は国防費を約6兆円増やしたいと考えていますが、予算編成権を持つ議会が認めない限り、国防費の増額は果たせません。大統領がいくら自分の信念を語ったとしても議会の協力がなければ、その信念を政策的に実現することはできないのです。

それでも、アメリカ大統領は最高司令官として世界最強の米軍を自由に動かせる指揮権を持っていることから、他国からは強い指導者と映るのでしょう。

首相が自由に行使できる衆議院解散権

一方、我が国ではどうでしょうか。首相の権力は圧倒的で、官僚も与党議員もマスコミも業界団体も、首相に対し異議を申し立てることに臆病になってしまいました。そして官邸を向いて仕事をするようになったのです。

こうなった理由にはまず、1996年の衆議院総選挙から小選挙区制と政党運営を国費によって賄う政党助成金が導入されたことによって、候補者の公認権と党の資金の配分権が派閥や労働組合から党執行部に移ったということがあります。

会社でもそうですが、金と人事を握ることが組織を掌握する要諦です。特に政権与党の場合、党執行部のトップである総裁が首相なので、党つまり与党議員も首相に従わざるを得なくなりました。

次が、2001年に官邸に直属する内閣府が設置されたことです。私も内閣府副大臣を務めたので分かるのですが、内閣府には複数の省庁が関係する問題に対して各省庁よりも一段高い立場から政策の総合調整を行うという権限が与えられました。

その目的であった、いわゆる縦割り行政の弊害は確かに緩和されたものの、一方で首相官邸による政治主導も実質的により強化されたのです。

最後が、2014年に内閣官房に内閣人事局が設けられ、首相官邸が省庁の幹部人事を直接動かせるようになったことです。従来は各省庁内でその幹部の人事を決めていて、ときには省庁が首相官邸と違う見解を表明することもありました。今やそんなことはできません。

内閣人事局の設置は日本の政治制度における「静かな革命」ともいわれています。

衆議院議員の実質的な任期はわずか3年

日本の首相の権限の強さはアメリカ大統領以上なのです。もっとも、ここまでならば政治主導という点で肯定されるでしょう。日進月歩で先端技術が発展し国際環境も大きく変わってきた今日においては、政治が迅速に意思決定をしていくことは当然でもあります。

しかし、首相の権限が強くなったからこそ、政府を監視し、国民の権利を守る、議会としての権能強化も必要になってきたと言えます。

先進国ではイギリスでもドイツでも首相の解散権が制限されています。ドイツでは、度重なる解散がヒトラーの台頭を招いたことへの反省から首相の解散権を戦後ずっと制限してきました。イギリスは、2011年に議会固定法が成立し首相の自由な判断で解散できなくなっています。また、イタリアやフランスでは、自由に解散を行うことは一般的ではありません。

このように他の先進国では解散権を制限しているのですから、日本でも解散は内閣が不信任されたときと、新たに衆議院の決議で解散を求めたときだけに限定してはどうでしょうか。

つまり、首相の解散権を制限することで衆議院議員として解散を意識する必要がなくなります。そのことは、立法府と行政府との関係を質的に変化させます。

憲法改正によって首相の解散権を制限する

衆議院で内閣不信任案が議決されると、首相は「解散」か「内閣総辞職」のどちらかを選ぶことになります。この場合の解散は、首相の恣意的な判断での解散ではありません。ところが現実には、首相は憲法第7条に基いていつでも衆議院を解散できるのです。第7条で、内閣の助言と承認により天皇が行う国事行為の一つとしての「衆議院の解散」が定められているからですが、とすれば首相の恣意的な判断での解散を避けるには、この規定に制限を科さなくてはなりません。

その上で、私は「衆議院の自律解散」という考え方を提唱したいと思います。これは、今回、EU離脱を強く支持するかどうかについて総選挙で国民に問うためにイギリス議会が3分の2の賛成で自律的に解散したのと同じ制度を導入するということです。

我が国での「衆議院の自律解散」の実現には憲法改正が必要ですが、それは立法府の権能を強化し、政府への監視機能を強め、国民の権利を守るために欠かせないものだと考えます。