【国会レポート】日本の国会議員にも深く関わる 中東各国の反政府デモの情勢【2011年2号】

今年に入って中東各国で反政府デモが頻発するようになりました。すでにチュニジアとエジプトでは長期にわたる独裁政権が崩壊し、リビアでは内戦状態となっています。中東各国にはそれぞれ固有の事情があるにしても、反政府デモが国を超えて広がっていったことを考えると、底流には何か大きな流れがあって、それが今後の中東全体の政治に新たな段階をもたらす可能性も否定できません。

日本はエネルギー(石炭、石油、液化天然ガスなど)の大半を輸入に頼っています。この輸入金額は1990年代には毎年5~8兆円程度でしたが、2001年から石油価格が上がり始め、その結果、2004年には10兆円を突破して11.3兆円になりました。以後も石油の価格上昇は止まらず、2008年には28.8兆円にも達したのでした。リーマンショックを経て2010年には18兆円へと下がりましたが、いずれにせよ、エネルギー価格は日本経済に非常に大きな影響を与えます。そうした中で、日本が石油輸入の9割を依存しているのが中東にほかなりません。したがって、中東の政治や経済の動向はそのまま日本経済にも大きく響いてくるのです。

とすれば、中東で反政府デモが頻発するようになったとき、日本の国会議員の関心が一斉に中東に向いたとしてもおかしくないのですが、実際には日本の国会議員の間では大きな関心にはなりませんでした。

北朝鮮の核を真剣にきくドイツの国会議員

今から6年前、私は日独議員連盟の一員としてドイツを訪ね、ドイツ連邦議会でドイツの国会議員たちと懇談したのですが、そのとき、ドイツの国会議員たちから異口同音にかつ真剣に「北朝鮮の核はどうなっているのか」と訊かれました。当時、北朝鮮の核開発が国際的な問題になっていたからですが、ドイツの国会議員が日本の国会議員以上に北朝鮮の核のことを心配していたことに、私は新鮮な驚きを覚えました。

地球の裏側の出来事が日本にも直接的に跳ね返り、世界が連動して動いている時代です。当時、国会議員として、内政はもちろんのこと、国際的な視野から国政を考えるという視点も持ち続けなくてはならないと考えを新たにしたのでした。

中東のクチコミ社会に寄与したインターネット

さて、今回の中東の反政府デモの場合、その要因は、1人の指導者の政権が長く続いた、1人当たりのGDP(国内総生産)が低い、インフレ率が高い、貧困率が高い、失業率が高いなど各国ごとに挙げられるようですが、各国の事情を一括りにすることはできません。ただし、どの国でも政府の指導者とその権力を支えてきた人物や組織が反政府デモのターゲットになっている点では共通しています。

そして、もう1つ興味深い点としては、やはり今回の反政府デモでインターネットが大きな役割を果たしたことでしょう。しかし、これはインターネットが反政府デモを直接盛り上げたという意味ではなく、クチコミ社会である中東においてそれを補強するメディアとしてインターネットが使用されたということです。

中東では昔からクチコミというメディアの力が強いと言われています。クチコミも皆が参加できる双方向のメディアで、中東では子供の頃からこのクチコミの能力が磨かれています。クチコミによる政治的な情報の伝達力もきわめて高いのですが、こういう人たちがクチコミと同じ双方向メディアのインターネットを手に入れたことはけっして見逃せません。

しかも今回、インターネットで流れたのは「ムバラクを倒せ」とか「仲間が抗議の焼身自殺をした」といったショートメッセージでした。従来の中東での政変とは異なり、チュニジアやエジプトのようにショートメッセージで政権が倒されたのは初めてなのです。

ところが、これはその前提に政治的なイデオロギーなどがあって「こうすべき」という方向性を示すものではないため、大衆の不満の受け皿にはなりにくいと言われています。そこで、私の知り合いの専門家は「政権が倒れた国ではこれからそれぞれのストーリーが作られていく必要があります。そのとき、旧政治体制が壊れただけで新しいストーリーができるのか、あるいは、政治制度そのものまで破壊の対象になっていくのかを見なければならないでしょう」と指摘しています。

以上のことを別の言い方で表すと、「たとえばエジプトのムバラク政権を倒したのは1つの大きな政治勢力ではなく『ムバラクを倒せ』といった大衆のショートメッセージだったため、ムバラク政権が倒れた後はどうなるのかというストーリーが最初から考えられていたわけではありません、ですから、エジプトという国を再建するにはこれから新しいストーリーが必要になる」ということです。ただしエジプトの場合、そのストーリーを誰が作るのか、ストーリーが本当にできるのかなどについて、今のところ判然としていないと言えるでしょう。

政治家は自分なりのシナリオを描くべき

付言すれば、私が今回の問題で中東についてもっと深く理解するためには、やはり現地に出向いて一次情報に触れる必要があると考えます。そうすれば、中東の今後の動向については私なりの新しいシナリオも描けるはずです。たとえば昨年12月、「中国の政治体制は弱いのではないか」という自分なりのシナリオを持って中国に行ったのですが、現地で一次情報に接してそのシナリオを変えることができました。つまり、「中国政府は大衆の意見を細かく汲み取っているので簡単には崩壊しない」という確信を得たことです。

このように政治家には、まず自分なりのシナリオを描き、一次情報に接するなどしてそのシナリオを修正あるいは洗練させるという営みが欠かせません。なぜなら、それこそが政治家としての決断の誤りを小さくする有力な方法だと思うからです。