【国会レポート】政権交代で可能となった公務員制度改革【2010年3号】

去年の総選挙で私個人の公約として「ゲリラ豪雨対策」と「自殺対策」を訴えました。まず、ゲリラ豪雨対策については政府の中央防災会議で専門家調査会が開かれることになり、そこで具体的な議論が深まっていくことになります。

また、自殺対策も3月を対策強化月間に指定し、テレビやラジオ等のマスメディアを使った集中的な広報活動を実施し、同時にハローワークや中小企業相談窓口等ではメンタルケアの相談を行いました。その結果、3月の自殺者は去年に比べて明らかに減りましたので、対策を強化した効果が少しは出てきたと胸を撫で下ろしているところです。これからも気を緩めずにしっかりと取り組んでいきたいと思っています。

第一弾は中央省庁の幹部官僚の人事改革

以上の公約以外に今、私が内閣府副大臣として深く関わっているのが公務員制度改革です。政府で仙谷由人内閣府特命大臣、階猛総務大臣政務官と一緒にこの問題を担当し、今回の公務員制度改革法案は多くの方の協力を得て取りまとめ国会に提出することができました。

ただし今回の法案は第一弾で、特に中央省庁の幹部官僚の人事を対象にしたものです。幹部官僚というのは事務次官、局長、審議官(部長)クラスであり、企業で言えば執行役員に相当します。30万人の国家公務員のうち600人がこの幹部官僚ですが、これは世界的な電機メーカーGE(ゼネラル・エレクトリック)の役員600人、従業員30万人という規模とよく似ています。日本の国家公務員改革は、世界的な大企業を改革するようなものなのです。

今までの官僚人事は各省庁内で行われてきたため、縦割り人事による弊害だけでなく各省庁の幹部人事に政治は介入できませんでした。それが官僚主導と呼ばれるような状況を招いた一因とも言えます。しかし、官僚主導を許してきたのも政治であり、今回の改革は、省庁の幹部人事を国民の代表たる政治が決められるようにすることで、政治主導を取り戻す営みでもあります。この政治主導とは、政権ごとの政策の優先順位に応じて、優秀な幹部の人材を各省庁の枠を超えて適材適所で配置できるようにすることです。従来とはまったく次元の違う画期的な公務員制度改革が推進されていくのです。

天下り先の確保が評価された時代があった

公務員制度改革に取り組んでみて、長年民間企業で勤めてきた経験を持つ私が大きな衝撃を受けたのは、いかに公務員の人事制度が時代から遅れているかということでした。

私は30年前に民間企業に就職したのですが、入社後何年か経ったとき、私のような若手社員が全員、本社の講堂に呼び集められ、人事部から次のように言い渡されました。「これからは誰もが課長や部長になれるという時代ではなくなりますので、課長や部長というラインから外れてもらう人も出てきます。そういう人には主任部員というポストに就いてもらいます」。

当時、団塊の世代が中堅社員となりつつあり、課長や部長のポストが足りなくなっていました。そこで会社は、団塊世代対策としてラインから外れる人のために主任部員制度を設けたのです。

一方、このとき、中央省庁ではどうしていたか。再就職先を確保するために公益法人(社団法人・財団法人)などの外部団体の設立に励んでいたのです。私の同僚議員の中に当時、中央省庁で働いていた人がいるのですが、彼らはこう言っています。「あのころは公益法人を作るのが仕事で、公益法人を作れば作るほど評価されたんですよ」。

中央省庁では基本的に、国家公務員1種試験に合格して採用された「キャリア」と呼ばれる人が幹部官僚になりますが、これまでは課長職まではキャリア全員が横並びで昇進していました。その後はポストが限られるので、昇進できないと役所を辞めなくてはならないのですが、公益法人などへの再就職によって役所を辞めても職場は確保されることになっていたのでした。

圧倒的に遅れている国家公務員の人事制度

そこで、今後、役所でも主任部員制度的な仕組みを設けて、引き続き専門性を生かした仕事をしてもらうことも考えられます。この場合、当然、給与は抑えることになります。

また、この幹部職員600人については政治の判断で異動させられるようにするため、各省庁を超えて幹部官僚の人事を一元化します。つまり、各省庁の縦割り人事を廃止し、幹部官僚を一つの名簿にまとめ、この名簿に基づいて内閣総理大臣や官房長官あるいは各省庁の大臣が配置を決めることになります。省庁の枠を超えて幹部官僚を配置できるというのは、まさに適材適所の人材活用ということであり、言い換えれば、国の危機を乗り切るために最高のチームを編成するということです。

政治が幹部官僚の人事を行うことになれば、各人がこれまでどんな仕事をしてきたのか、それについてどのように評価されているのかという情報(民間企業で言う「目標管理シート」)がなくてはなりません。ところが、これも驚いたことに昨年まで、(どんなセクションにいたかという経歴はあっても)そうした情報は、人事担当者の頭の中にあるだけで、客観的な人事資料としてはまったく蓄積されていませんでした。まさに「人事はあっても人事管理はない」状態だったと言わざるを得ません。昨年、中央省庁でもやっと目標管理シートが導入されたのですが、民間企業に比べて中央省庁の人事制度は圧倒的に遅れていたのです。

かつての部下が上司になる時代が来る

ともあれ、今回の改革によって、政治が人事考課に基づいて600の幹部ポストの任命権を持つことになります。加えて、公募による採用を行う方針です。となると、かつての部下が上司になるケースも出てきます。それにまだ抵抗のある人はいるでしょうし、横並びの出世が当然だった役所ならなおさらと思います。

けれども、それには、塩野七生『マキャベリ語録』(新潮文庫)にある以下のマキャベリ(16世紀のイタリア・フィレンツェの政治思想家)の言葉が良い示唆となるに違いありません。

「古代のローマ人は、名誉を尊ぶ気特が非常に強い民族だったが、それでもなお、かつての部下に命令される立場になっても、不名誉なこととは少しも考えなかった。(中略)信頼できる市民とは、下位から上位に昇進する者よりも、上位から下位にさがっても不満なく任務をまっとうする人物である」

30年ほど前は女性上司の下で働くのは男性社員に抵抗がありましたが、今はそんなことはありません。同様に近い将来、かつての部下が上司になるのも珍しくなくなり、それぞれが時々の役割に応じて自己の能力を発揮する時代となるでしょう。